2010年5月25日火曜日

会話の木 第3項

会話の木 第3稿

会話の木

会話の木。
いつからだろう。
会話の木、そんなものが人の頭の上に見えるようになったのは。

最初、この能力に目覚めたときは、それが何なのか分からなかった。
ある日突然人の頭の上に樹上のものや、メカメカしいものが浮かび、それが3Dテレビの映像のように立体物として見えるようになった。
そして、大半は浮かんでいるだけで、触っても通り抜けたまに少しいじくることが出来る。
最初のうちは、それが何か分からなかった。
人の頭の上を見ては

人通りの多い雑踏の中で目覚めた。
街を歩く人の群れの頭に突然、頭の上を泳ぎまわるイルかだの、裸の女性だの、仕事上で使う道具だの、友達の顔だの。
ある大学生の頭の上には難しい数式ばかりが並んでいた。




最初の日は驚きあきれて、ただただ家に帰ることだけを考え、家族にはこのフォログラムのことを内緒にしていた。
ご近所や家族の人を見ていて分かったことは、この能力は人の興味と関係があるらしいということだ。
そして、人が何に興味を持っているかが分かる能力らしい。


能力に目覚めたからといって、何か子供向け小説に出てくる裏の組織が何かを教えてくれるわけでもなく、ただ
淡々と日々が過ぎていく。
もちろん正義のヒーローも悪の軍団が現れることもない。

この能力が与えてくれたものはどちらかと言うと知的好奇心に近い。


どうやら、私の能力は、人が普段興味を持っているものや、普段行っている会話というものが3D映像のフォログラムのように見えるらしいのだ。


この能力が何かの役に立つかは分からない。


ただ人と会話するとき、この木を眺めながら会話をするとひどく楽しい。
興味が分かるのだから、会話も弾むと言うものである。
であった人

時折、相手の会話の木を整理したりもする。
揺らしたり、付け替えたり、会話の木の中にイルカがすんでいるときなどは非常に楽しい。
イルカはこちらの動きにたいしてきちんと反応を返してくれる。


相手は私の奇行に面食らうが、そんなことにはかまわない。
ある日は、言葉の木を揺らしてある日はしおれて自信をなくした言葉の木に、会話で肥料を与える。




この能力でもっとも楽しみなのは私の家族である。
3歳になる娘だ。
娘の会話の木を毎日育てる、会話の木がとても美しいものになるように毎日会話をしている。




会話の枝には一つ特徴がある。
会話をしようとして無視されたり嫌われる環境が長いと、枝がどんどん抜け落ちていくらしいということだ。

パソコンをしていて人が会話をしたがっているシグナルを無視するなどというのはその典型。
そんなとき人の会話の枝は恐ろしい勢いで抜け落ちている。
だから私は私の娘との会話だけは欠かさないし、人がシグナルを出していたら無視することが出来ない。





世間には色々な人がいる。
普段よほど喋らないのか枝がほとんどなく、貧弱で小さな枝しかない人。
専門用語に巻かれて、誰とも会話がかみ合わない人。
愛と言う言葉が一つも見当たらない人。
困るのはアニメと漫画の洪水に使って、全ての言葉の枝がアニメキャラになってしまっている人。

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