2010年5月6日木曜日

偽物の音だけで作られた作品だけど

前回の音を題材にしたイラスト募集の話。


ただ今製作中
3流でごめん。

-絵に音を閉じ込めるためのモチーフの話


カヌーは音を立てて、緩やかにさらさらと流れる川を下っていく。
川の周囲には木立が並び、春のさやさやとした風の中でザワザワとこずえが揺れる。
うららかな日本の春の日差し、欠伸が似合いそうになるなか、私は手際よくちゃぼちゃぼザーザーとオールをこいでいく。

数日前までの都会の喧騒が嘘のようだ。
先月まで赴任していた南国のけだるい蒸し暑さの中。
仕事中根城にしていた安いコンクリ性の建物は常時窓が開けっ放しで都会の喧騒や生活音が飛び込んできたものだ。
少し遠くの大通りから届くバイクの音、裏道で話される方言だらけの英語と現地語のちゃんぽんの声、祭りの日に中華街でこれでもかと使われた盛大な爆竹の音。
時折作業用や見世物用の象の声が混じり、昼も夜もうるさく、しまいには喧騒なしでは眠れないようになったものだ。


この音になれた状態で日本に戻ったとき整然とした綺麗なアナウンス、道路や街路や電車の中で話をしない静かさにはびっくりしたものだ。
親戚に挨拶を終えるとバックを片手に、東京から即座にこの自然の中へすぐに来た。
子供の頃から聞きなれた日本車の綺麗で静かなエンジン音は気持ちよく、喧騒のない音に満ちた自然の中を抜けるように走る。
山深く、鳥の声に包まれ、山頂には雪が残り川には水量があるところでカヌーをおろす。
がちゃがちゃとボートを止めたボトルを外し、ごーっと滑らかな摩擦音だけで綺麗にカヌーを滑らしゴトと地面に置く。
何度も手馴れた鮮やかな手際。
一服の絵になるほど綺麗な動き。


川に浮かべる前にカヌーを点検したら即座に、石だらけの場所をガリガリと踏みしめながらカヌーをサーッ戸水に浮かべる。


そしてこの緑溢れる盆地を進む川をいま下っているというわけだ。
ボートで下っていると途中の川沿いの草むらから、何かが草の中で体をごそごそさせて枝場を揺らし、がさっと音をさせて飛び上がる音が聞こえてきた。
どうやら狐らしい。

去年冬にここにきたときは、一面の雪の上を狐が歩いていたのを思い出す。
雪自体が初めてだったのか、狐は雪を踏むたびに出る音や自分の足跡を興味深く眺めながらシュボシュボと音をさせて歩いていたっけ。
狐たちが体を雪の中でズボズボさせながら走っていたりしたものだ。

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